大工の棟梁から引き渡された山小屋は殺風景で、如何にも即物的であった。
やはり建物は、人が住んでいる痕跡が無いと何となく寒々しいものである。  山小屋の土木工事は、小屋に人気を与え、山小屋生活を温もり有るものに変えて行く作業でもある。この作業が不思議なことに何とも楽しいのである。今ではこれが山小屋に来る一つの目的になってしまっている。
作業は自分の趣味だから全て一人でやる。効率よくやるためにも、安全にやるためにも、工事の段取りを工夫しなければならない。

犬走りを作る
小屋を建てたばかりの頃、建物が盛り上がった赤土の上に置いてあるようで、いかにも今作ったばかりという雰囲気で周りの風景になじんでいなかった。建物の土台の布コンクリートは、あまり深く埋まっていないように見えるし、その周りがふかふかしていて歩き難く、直ぐ崩れそうだった。そこでここに枠を作り、砂利を盛って”犬走り”を作ることにした。

 先ず土台の外側70cmの所に、4メートルのカラ松の丸太を縦に二本積んで杭を打って枠を作り、細かい砂利をたっぷり入れた。急な傾斜地なので、更に70cm離して下の枠を作った。結果的に二段の犬走りになった。この犬走りの長さは12メートル有る。

 このような工事は、本当は下の段から作るものであるが、慣れないこともあって、何となく上の段から作ってしまった。数年後に果たして丸太の下から土がぼろぼろこぼれ出して空洞が出来始めた。そのため丸太が沈んで杭が出っ張ってきた。更に最近では丸太も杭も腐ってぼろぼろになってしまった。

 これまでに、大分経験も積んだし技術も高まったので、こういう失敗はもうしない。新しい技術と枕木を使って近々やり直す予定である。

駐車場の土留め
北側の、建物と道路の間に作った駐車場は、道路との段差が数十センチ枕木を積んだ駐車場から最大1メートル強あり、長さが約12メートル有る。放っておくと道路の土が崩れて駐車場が狭くなるだけでなく、道路自体が崩れてくる心配がある。

 棟梁に、「土留めをするにはどのくらい掛かりますかね」と聞くと、「100万は掛かるね」と軽く言う。どう考えても100万円の仕事量ではない。大した作業ではないので面倒くさいらしい。「自分で何とかやるからいいよ」と断った。

 そうは言っても、駐車場の土留めは、幅を確保するため、道路からの傾斜を出来るだけ急に取らねばならない。素人には難しい工事である。
コンクリートの土留めは、素人の作業としては大袈裟すぎるし、仕上がりに趣がない。大石を積んで貰うと場所を喰って駐車場の幅が取れなくなる。

 そこで、枕木に絞って、色々図面を引いてみた。その結果編み出した方法は、案外当たり前の方法であった。

 先ず、古い枕木二本を下から積み、その手前を直径8センチ、長さ140センチの長い杭二本を1メートル打ち込んで止める。枕木で作った杭次に二本の枕木の背後に同じく140センチの杭二本を、1メートル打ち込み、その奥に、新しく枕木を2本積む。これで80センチの高さの土留めが出来る。これを基本とし、段差の大小によって下側の枕木を三本にしたり、更に上側の枕木を三本にしたりして高さを調節する。
この方法は、簡単な割りに急斜面の土留めとして堅固なので、後の全ての土木工事に応用している。しかし、その後5年でカラ松の杭が腐り始めた。一部を枕木の杭で打ち直したが、9年経った現在、どうやら全面的にやり直す時期が来ているようである。

杭について
杭は、近くの森林組合から数十本ずつ買ってきては土留めや階段作りなどに使っている。また近所の山の間伐材が野ざらしになっていると、出かけて行って杭になりそうなものを切り出してくる。この間数えてみたら既に350本も杭を打っていることが分かった。

 杭打ちは、たまにやると手と肩の筋肉が凝り、一週間以上も直らない。

 土留めにはよく古い枕木を使う。木による造作は、コンクリートより柔らかい感じが出て山小屋にはよく似合う。寿命も建物以上に長い。

 普通の木を使うと、早く腐るので、直ぐに工事をやり直さなければならなくなる。その度に掛かる経費を考えると、枕木の方が安くつく。但し、杭も枕木から作ったものを使わなければ意味がない。

 しかし古い枕木では、内部に金属が埋まっていたり、ひびが入っていたりして使えない。杭を作るにはやはり新しい枕木でないと駄目である。

新しい枕木による杭
最近友人の手づるで新しい枕木を100本ほど仕入れる事が出来た。100本の新しい枕木これを土止めに使うだけでなく、縦に鋸で挽いて杭を作り、駐車場の土留め全体を作り直そうと思っている。
しかし言うは易しで、堅くてなかなか縦に挽けない。チェーンソウでも歯が立たない。

 小型の丸鋸を使って挽いてみたが、歯の経が小さいことと、力がないことから簡単に煙を吐いて動かなくなってしまった。

 そこで直径19cmの中型丸鋸を買ってきた。また丸鋸の歯を上に向けて固定する台を作り、丸鋸を作業台に取り付けた物町の製材所がやるように枕木を滑らせて縦に挽いていくようにした。それで幾分上手く行くようになった。しかし歯の径が小さいので、両面から挽かなければならない。更に、残った部分を鍛冶屋の一方を叩き込んで割らなければならない。
しばらくは、このようにして杭を作っていたが、素人が一人でやるには、労力が掛かりすぎてどうにもならない。別の方法を考えるまで中止することにした。

 そうこうしている中に三年が過ぎてしまった。ところが、ある日以前から欲しいと思っていたバンドソーが、店舗改装のDIY店で、半額の11万円で出ていた。作業台に取り付けたバンドソー「これだ!」と決めて迷わず購入した。これを床下に備え付けて本格的な杭作りの装置を拵えた。材料を滑らかに送るために、これも半額のローラー台をテーブルの前後に取り付けた。
そのお陰で、枕木から杭の製作が急に楽になった。半日作業をすれば、枕木二本分、つまり16本の杭が出来る。しかも以前の傷だらけの杭と違って綺麗に製材された杭が得られるようになったのである。
出来上がった杭を積み上げて見ると、何とも言えぬ満足感が湧いてくる。よく言われるように、薪を一年分割って軒下に積み上げたときの気分である。