植木屋の心境
昔、腕のいい植木屋は庭作りを頼まれると依頼主の縁側でタバコを吹かしながら、何時間でも庭を眺めていたという。どんなレイアウトにしようか、植採の種類や石の大きさをどうしようか、段取りをどう付けるかなどを熟考していたのである。

 私の仕事はそれほど大げさなものではないが、少しばかり本気で床下にバーベキューの穴蔵を拵えてみようと思った。この工事は、傾斜した床下全体に渡る工事であることと、全て一人でやるので、素人としては結構大掛かりな工事になる。

 下へ行くほど緩くなる25度近く傾斜した床下に、どのようにバーベキューの穴蔵を造るかは案外難しい問題である。幸い床下は立端(タッパ)が高く、周囲以外柱が一本もない。棟梁が将来何かを作ることを想定して、そのように建ててくれたのである。

 傾斜地の途中から下の部分を削り取り、土留めをしてバーベキューに必要な平らな土間を造る。その土間は十分な広さが取れるのか、崩した土で土間全体はどれだけの高さになるのか、土留めはどんな構造にして何センチ立ち上げる必要があるのか等を読み取らなければならない。そんなことを考えていると件の植木屋の心境になるのである。

レイアウト
床下の広さは、建物全体から北側に並んだ風呂場、洗面所、トイレ、玄関、押入等を除いた広さである。この部分は全て布コンクリートで囲まれている。
北を向いて見ると、左右(長手方向)に約12メートル、前後に3.5メートルで、手前に約25度傾斜している。北端の上の土台に接している土の高さと一番低い南端の土台に接している土の高さの差は190センチある。

 全ての工事を一度にやるわけに行かないので、右から3メートルの位置に、枕木一本分(210センチ)の幅だけ土留め工事をやり、将来両側に少しずつ広げていく積もりである。バーベキューの炉を作るには、炉、椅子、足置き場を合わせて200センチ四方の土間が必要である。

 傾斜地の、南端から200センチ分を削って平らにすると、南端は崩した土で30センチ程上がる。逆に北端はバーベキューの炉40センチほどの土壁になる。その壁から上の土台までは水平距離で150センチ(350-200)ある。作った平地と北端の土台に接する土の位置との段差は、160センチ(190-30)になる。実際の断面形状は、160センチの高さから150センチ離れたところが40センチになっていることになる。この傾斜をどのような構造で土留めするかの問題である。

 そこで大雑把に、平地の北端の40センチの壁に80センチの土留めを作り、そこに上の土を崩して埋めて平にする。
その奥数十センチの所に、再び80センチの土留めを作ると、その奥が数十センチほど空くので、そこを平にして通路とし、その奥にある物入れを使う時の道とすることにした。

土留めの実際
土間の北端を枕木の厚さ(14センチ)分掘り進め、そこに枕木二本を積み、手前に二本の杭を打って止める。次に枕木のすぐ背後に、杭を二本打ち、その向こう側に再び枕木二本を積む。これで最初の80センチの土留めが出来る。

 こうやって出来た80センチの土留めの上面から奥に、平坦部を40センチ(枕木の幅を含めると54センチ)取って、同じ要領で、再び段差80センチの土留めを作る。その結果、最上段の平坦部の幅は、枕木の幅14センチを含めて約54センチとなる。結果的に、最上段と中段に54センチ幅の平らな部分が出来る。中段の平らな部分は、歩くために使っても良いし、一寸した物を置くために使っても良い。

 杭は土留めの枕木の腐る速度に合わせるため、自分で枕木から作った。
杭の必要な太さと長さは、土質によって大きく異なるが、これまでの駐車場の土留めの経験から5×7センチの角杭で、長さ140センチとした。

 枕木の積み方は、土面を十分突き固めて、その上に大小の砂利を敷いて、更に突き固め、水準器で厳密に水平、垂直を取り、その上に置く。更にもう一段積む。枕木は、建物の側面との平行も取る。

 重い枕木を扱うには一寸したノウハウが沢山ある。その一端を紹介する。

1)二本目を積むときは、ブロックを一枚横に置き、一方の端をその上に乗せてから他方を積む。何でもないことであるが、狭いところで、一人で重いものを確実に積むノウハウである。これをやらないと何度でも滑り落ちる。

2)また枕木の取り回しには長めの手鍵(40センチ程度、荷鍵とも言う)が非常に便利である。腰を屈めずに片手で枕木の一方を持ち上げられるので、腰への負担が極端に減る。但し、外れたときのことを考えて、下に足を置かないようにして、慎重に持ち上げる必要がある(足の爪先に鉄が入った長靴がうられている)。

3)杭は、最初の二段に対しては、両端から25センチの位置に、次の二段に対しては,40センチの位置に打つ。杭が前後に並ぶと、弱くなるからである。

4)一人で杭を垂直に打つのは案外難しい。枕木が杭に接触しないように奥へ少し逃がしてから打つのがコツである。少し打っては垂直を見る。実際には角度1~2度山側に寝かせて打つと仕上がりに安定感が出る。

 なお杭の外側に予め8番線を緩めに廻し、その両端を土留めの枕木に打ち付けた二本の釘に巻いて固定しておくと真っ直ぐ打てる。釘はコンクリート釘を用い、道穴を空けてから打つ。
杭が打てたら、奥に逃がして置いた枕木を杭に寄せて、後ろ側に土を詰め、十分突き固めて平らにする。

炉とベンチの製作
  炉は、出来上がりの安定感から、厚みのある(12センチ)重量ブロックを積んで作った。形状は土間の長手方向にブロック二枚の長さ(78センチ)とし、幅方向は一枚のブロックと両側から長手方向のブロックの厚みで挟んだ長さ(63センチ)とする。この大きさは、売っているバーベキュウ用の網が内側に丁度入る大きさである。

 なお、炉の中心を少し土留め側(北)に寄せて設置し、後で炉と南土台側のベンチとの間を通り抜けし易いようにした。

 先ず炉より少し大きめに深さ25センチほど地面を掘る。砂利を入れ、よく突き固め、霜で上がってこないように、”捨てブロック”6枚で基礎を作る。この時点で十分水平を出しておく。
その上にブロックを二段積み、最上段はブロックを寝かせて7枚積み、テーブルを兼ねる。このテーブルの大きさは、97×78センチになる。

 それぞれの段は、外周を8番線できっちりと巻き、互い違いに引っかけ合うようにして(単に撚り合わせたのでは締めたときに弛む)しっかり結ぶ。最後に四面のワイヤーをプライヤーでZ字型になるように締める。この際ブロックの四隅には、少し溝を掘り、ワイヤーが面で当たるようにしておくとしっかり締まる。

 この方法はセメントを用いないで、ブロックをガッチリ積む方法であり、私が編み出した方法である。各段は重みで繋がっているだけである。勿論ブロックの穴にモルタルを詰めて積めばなお良い。

 人に触れる可能性のあるブロックの角は危険防止のため金槌で叩いて丸める。この様にして作った炉の強度は大の男が縁に乗っても大丈夫である。出来上がった炉の高さは、50センチである。

 炉には適当な深さまで土を入れ、その上で焚き火をして灰を作った。炉の表面から天井(建物の床)までは3m以上有り、安全に火を燃せる。

 次に土留めの枕木の一部を利用して土留め側のベンチを造る。一番下の二段の枕木の上面に30×180×3センチの中空コンクリート化粧板(盆栽を並べる棚として売っている)を置き、ドリルで穴を開け、釘又は木ねじで枕木に止める。その際、枕木にも道穴を開けておかないと硬くて入らない。

 ベンチの高さは約43センチである。炉の反対側にも建物の土台のコンクリートに沿って同じ材料で180センチの長さのベンチを作った。なお炉の長手方向の両端にも小型のベンチを配置した。炉を囲んで10人程度まで座れる。

 ベンチはコンクリートで出来ているので、座ると冷たいので、表面にフェルト加工をした30センチ四方の柔らかいスポンジ板を両面テープで張り付けた。(このスポンジのフェルト部分は、3年程度で風化して粉が出るので、別な材料に替えた方がよい)
土留めを兼ねた背もたれにも同様の材料を貼った。フェルトの色はカラーコーディネートした。南側のコンクリート土台側の椅子は背もたれがないので、危険防止のため建物の柱を利用して、3センチ径のステンレスパイプを取り付けた。

 外から床下への出入りには、ブロックで階段を作った。

 土間の幅は、210センチ(枕木の長さ)で、その両側は泥の傾斜のままであるが、我ながら出来映えは上々である。杭の製作まで入れると、正味六日以上掛かったことになる。しばらくは灰作りのため小さな焚き火を楽しんだ。完成したベンチに座って外を見回すと高い小屋から見る景色と違って、地面が目の高さにあるため、落ち着いていて何とも気分がよい。<

電気配線
 後はブレーカーを介して電灯線を配線し、照明装置を付ける。先日の休みに大きなプロペラの付いた燻し真鍮の”シャンデリヤ”を買ってきて取り付けた。バーベキューの煙が淀まないように、プロペラ付きのシャンデリヤにした。配線に一日、シャンデリヤの工事に一日掛かった。シャンデリヤ自体が10キログラムで重いことと、天井が高いことから設置には意外と苦労した。

 シャンデリアには径90センチの八角の天板を付け、天井から50センチほど離して吊し、天井の無骨さとシャンデリアを感覚的に分離した。また天板は明かりの反射とプロペラによる煙の拡散のためにも必要である。

 枕木一本分の幅の土留め工事であったが、10日近く掛かった。将来、幅十二メートルに渡る土留をするにはどれだけ日にちが掛かるか今のところ予想が付かない。まあ、気長にやることにしたい。

 (その後、床下の土留めを全て完成させたのは四年後であった。更に、両端に本格的な木組み階段を付けて床下への出入りをし易くしたのはその次の年であった。)