以前から囲炉裏が欲しいと思っていたので、バーベキューの炉を少し改造して、近代的な、ベンチのある囲炉裏に仕立て直してみることにした。
改造と言っても、上から自在鍵を提げ、ブロックの炉の表面に囲炉裏を模した木のテーブルを被せ、炉全体を柔らかみのある材料で囲むだけである。
家内が湯沢へ旅行したときに骨董屋で、使い古した裸の鉄棒で出来た自在鍵と内側が錆びた大きな鉄瓶を仕入れてきた。自在鍵は何の飾りもない最低限の機能があるだけであるが、村の鍛冶屋の手になるものであった。鉄瓶は表面に浅く絵が鋳造され、なかなかいい形であるがやや大きすぎる感じもする。
その後、浅草の合羽橋の道具屋街に出かけて行き、数人分の調理ができる鉄鍋、昔懐かしい鋳物の火消し壺、五徳、鉄瓶から湯をくみ出す竹の柄杓等を買い求めて来た。
合羽橋の一角に民芸骨董の店があり、棕櫚縄を巻き付けて飾った艶のある竹の筒と木彫りの鯉の滑り止めが付いた立派な自在鍵が売られていた。値段は数万円で、凝ったものは10数万円であった。
山小屋で、二月の或る土曜日、スキーもそこそこにして、自在鍵を包む竹の飾り筒を作ることにした。
直径7、8センチほどの古い”もうそう竹”と黒い棕櫚縄一束を八千穂村のホームセンターで買ってきた。竹は何用に売っているのか知らないが、肉厚で、節の外側が綺麗に処理されていた。
この竹を二つに縦割りし、節の処理をして中に自在鍵の鉄棒を仕込み、再び合わせ、棕櫚縄で幅広く巻けばよい。
先ず、もうそう竹の必要な長さを決め、それより一節長めに鋸で切る。鉈を入れた時に出来る傷跡を後から切り落とすためである。また竹を真半分に割るために、くねりが最も少ない方向に鉈を入れる。
割れた半分同士をずれないように併せ、紐で堅く結ぶ。そして予定通り先端の一節を鋸で切り落とした。
次に鉄の自在鍵を割れた竹の内側に載せ、動き側の鉄棒の輪がスムーズに動くように両端を残して節を綺麗に削り取った。動き側の鉄棒が必要以上に下がらないよう、また竹がずり下がらないよう、両端の節には、鉄棒が通るだけの穴を開けた。自在鍵を仕込んだ竹筒は、外から棕櫚縄で縛るが、飾りを兼ねて三ヶ所ほど幅広く巻いた。実際には竹を割らず節を抜き、後で上端に引っかかりを付ける方が割れ目が入らず綺麗に出来る。
天井にはフックを取り付け、8番線を介して自在鍵を吊した。
早速鉄瓶を掛けてみた。鉄瓶の持ち揚げ代、竹の筒と鉄瓶との距離のバランス、鉄瓶を上に揚げたとき、鉄板焼きで邪魔にならない高さになるよう8番線の長さを調節した。
バーベキューをやるときの鉄板や網を置く台を囲炉裏の中に作った。直径1センチ、長さ180センチのステンレスパイプ二本をコの字形に曲げて、囲炉裏の内側の縁に沿って差し込んだ。囲炉裏の中は、表面が灰で、下の方は土になっている。だから、差し込む深さで、鉄板や網の止まる高さの調節が出来る。それぞれの足の途中に鉄のクリップを付けて、その出っ張りが、ブロックの角に引っかかるようにした。クリップの位置を変えれば、自由に高さが変えられる。
更に火起こしのバイブル、新案火吹き竹を作った。長さ90センチ、直径1センチの細目のステンレスパイプの先を潰し(先に釘を一本入れて叩きつぶすと、綺麗な穴が出来る)、反対から吹くと火吹き竹になる。使ってみると火吹き竹は、もう少し太く直径1.5センチ径、もう少し短い7、80センチ位の方がよい。
囲炉裏の横の見えないところに火吹き竹を置くフックを付けた。
最後は、バーベキュー炉を柔らかい囲炉裏の雰囲気に変えるキーポイントであるテーブルの製作である。
厚さ1.5センチ、幅24センチのラワン板を四隅で45度に接合し、周囲に同じくラワン材で3センチのスカートを付け、囲炉裏の上に載せた。
45度の板の接合には、裏から1センチの深さに波釘を三個づつ打って止めた。これだけでは接合の強度は出ないが、炉の上が平なので大丈夫である。
全体を艶消しの透明ニスで仕上げると、自在鍵と鉄瓶が一層栄えるようになった。またガラス器なども安心して置けるようになった。
角が45度に合わさった天板は、思ったよりずっと美しく、趣がある。
ブロックを寝かせて作ったこれまでのテーブルは19センチ幅であったので5センチ広がって、とても使い易くなった。
山小屋の囲炉裏としては我ながらいい感じに出来た。これで何時、人が集まって来ても大丈夫である。
その後何回か使ってみた。囲炉裏に座って眺める庭の景色は、高い位置に有る部屋から見降ろす景色とは異なり、地面から空まで景色が繋がって見えるため、非常に落ち着いた感じになる。
私と家内は4月に入ってから暖かい日には、夜でもここで食事をする。囲炉裏の火を熾し、お茶を湧かしながら、林に囲まれて食事をすると、ベランダで食べるよりずっと山小屋の雰囲気が出て安堵感がある。夜は少し冷えるが、膝に毛布を掛ければしばらくは大丈夫である。
南向きの傾斜地と言うのは天気さえ良ければ、想像以上に暖かいもので、三月に入れば、結構楽しめる日が多い。同様に11月でも使える日が多いものである。
しかし、ここに一寸した問題が起こった。この炉を一年を通じて使うと、湿気による木の伸縮のため、特に6月では、テーブルの中心が3センチも持ち上がって傘型になってしまうのである。
ラワン材の湿気による縦と横方向の伸び率が違うために起こる現象である。特に外気の中に置いてあるので、季節による湿度の差をまともに受けてしまう。
そこで、45度の合わせ目の下側全面に四角い板を裏から当てて多数の木ねじで留め、強制的に伸びを抑える方法を取った。これにより、反りは全く無くなったが、合わせ目が1ミリ程空いてしまった。又、季節毎に合わせ目の隙間の間隔が僅かに変わる。
ベニヤ板なら縦横の伸縮率が同じなので狂わないが、表面が余り綺麗でないので使いたくない。太くて厚い材料を囲炉裏に使うときは、伸縮による変形を避けるため、四枚の板を巴に組んで使うのが常識である。
しかし四隅を45度に組む木の美しさは格別であるので、若干隙間は空くが裏板を当てて強制的に伸びを止めたテーブルを使い続けている。