有る夏、会社の若い連中が山小屋に来てくれた。普段は余り入ったことのない林道でサイクリングをやろうと言う計画である。車二台で来た二組の夫婦と私の五人である。
  若者は立派なサイクリング車と専用スーツで固めた颯爽とした出で立ちであったが、私のは子供達が使っていた古いサイクリング車まがいの自転車を修理したものである。ギアは外装6段変速で、タイヤは凸凹のあるサイクリング車と同じ物を付けているが、その他はブレーキからフレームまで都会用の自転車である。おまけに小さな買い物籠が前に付いている。

  林道であるから余り荒れていなければ車も通れるのでそれで十分であるが、若者とのバランスは如何にも悪い。新しく揃えても次に何時使うか分からないので廃物利用でごまかした。                                         
  この恰好は若者がおジンスタイルと呼ぶ元凶である。彼等が嫌悪感を持たない程度に全体のスタイルを決めてやるのも若者への礼儀かも知れない。

  勿論彼等は嫌な顔一つ見せず(でも何年か後に「あの時は確か子供の自転車の改造でしたよね」と言われた)、五台の自転車を二台のワンボックスカーの内と外に積み、国道299号を自然園まで登った。小屋から10キロメートル程の処で、そこは林道の入り口になっている。別荘地との標高差は300メートルほど有る。そこから、更に一時間ばかり登り、10数キロの林道を下ろうと言う計画である。山の地図が正しければ、林道は、我が家から国道299号を1キロほど登った所に出る筈である。

  自然園からの林道の登りは広く整備されている。しかし傾斜は相当きつく、サイクリング車でも長くは漕いでいられない。途中縄文時代の遺跡が一、二カ所ある。そんな場所は、ちょっと覗いて休憩するのに丁度よい。八ヶ岳周辺には縄文時代の遺跡がかなり沢山あるが、今は指導標が立っているだけである

  山と森に囲まれた林道は変哲もない。でも若い人達は初めての景色の中で満足げであった。夏の山を見回しながら綺麗な空気を一杯に吸っていた。
  一時間も登ると、小さな川が現れ、それを渡ると、八ヶ岳で最も長い林道に突き当たる。この林道は八ヶ岳の北端の大河原峠に始まり、八柱山を巻きながら双子池、雨池を経て別荘地まで延々20数キロも続いている。このT字路は材木の積み出し基地に使っているのか、やや広い平地になっていて、木の皮や木っ端が散らかっていた。木陰に入り、持ってきた握り飯をみんなで輪になって食べる。旨い。後は下りのみなのでゆっくり休む。

   ここまでの道は八柱山への最も近道の林道で、工事の車やハイキングの人が通るので、歩きやすかった。しかし、ここからの下りは長く、林業関係の車がたまに入ってくるだけで、草は身の丈ほどもあり、道も見えないくらいである。その下に車の轍があったり、大小の石ころが隠れていたりする。殆ど漕ぐところはないが、スピードが出るので危険である。
  草に触れて少々痛い。景色を見る暇がないほどだ。時々草が無く小さな砂利ばかりの所があり、ふっと息を付くと同時に回りの景色を見る。遠く奥秩父の山々が霞んでいる。小休止だ。それぞれに日陰を選んで休憩。写真などを撮る。

  林道は山腹をトラバースしているため、時々小さな川を横切る。橋は無く、土管を埋めてその上に土を盛ってある。水は何と言っても最も嬉しい清涼剤である。川まで降りて手ぬぐいを濡らし、顔や首を拭く。そこには珍しい夏草やウドの大木が生い茂っている。しかし思ったより山菜の数は少ない。主に北斜面をトラバスする地形だからかも知れない。

  実は林道を走ってみたかったのは、常日頃、長い林道の奥まではなかなか人が入らず、山菜の宝庫があるかも知れないと期待してのことであった。一寸がっかりしたが、山小屋の近くの林道を一通り見ておきたいという希望は叶えられた。

  単調な景色であったが、程なく国道299号に出た。そこは地図で予想した通り別荘地の最も高い所に有る林道の出口だった。何時も通りすがりに「何処からの林道かな」と気になっていたところである。車止めの鎖が掛けられ、偶にその前に山菜取りの車が止めて有るので、もしかしたらこの林道沿いに山菜が沢山あるのではと期待していたが、どうやら出口から数キロは北斜面であり、その先10キロにも山菜は殆ど無いことが確認できた。

  別荘内を通り抜け、我が山小屋に着いた。残して有った車の一台に三人が乗って自然園入り口に置いた車を取りに行った。二人の奥様方は夕食のバーベキューの用意である。
  適度に疲れた体に、仲間の一人が昨日造った岩魚の燻製や焼き肉をつまみにして冷たいビールを飲む。こんな時のビールは最高である。