毎年8月頃になると、別荘地の南側の土手の草むらに真っ赤な木苺が点々と覗く。木とも草とも言えぬほど小振りで、茎も棘も柔らかく、他の草の下に埋もれている事が多い。明るい緑色の、やや縮れた葉に、赤い実がよく似合う。
いつもは何となく見過ごしていたが、八月になると、山野草の花も終わり、草むらが寂しくなっているので、赤い実が目立つ。見回すと隣家の土手の草むらに所々、透明な粒粒を一重に丸く並べた小さな実が見える。普通の苺を小さくしたような木苺も偶にある。一粒取って口に入れると、かなり酸っぱい。でも、微かに甘みを持っている。
そう言えば、春先に梅の花に似た白い花があちこちに咲いていたのを思い出す。
小屋に戻って図鑑を開いてみると、木苺には毒性のある物は無いとの記事があった。一番美味しいのは黄色い木苺であることも分かった。黄色い木苺は子供の頃さんざん食べて美味しかった記憶があるので納得する。
手籠を下げて、家内と別荘地を中心に木苺取りに出かけた。大きい物でも径が1.5センチほどの実で、既に時期が過ぎているのか、触ると粒がぽろぽろ落ちて後には茶色い凸形の萼が残る。乾いて黒ずんだ物も多い。
目立つ割にはそれほど無く、二時間も歩いたが、両手一杯程度しか取れなかった。黄色い木苺は一つもなかった。
それでも家内は小屋に帰ると、早速煮てジャムを作った。酸っぱいので相当砂糖を入れた。鍋の底に薄くジャムが出来た。
食べてみると色も綺麗だし味も良いが、大きな種が歯に触り、このままではとても食べられないので、網で裏ごしを掛けた。鮮やかな真紅色のとろりとしたジャムが白い器に溜まった。でも大匙二杯程度の量になってしまった。
翌朝、パンに付けて二人で味わった。夏の山の収穫をほんのちょっぴり味わっただけであったが、何かとても新鮮な気分であった。
早速季節の行事の手帳に、通年は八月初め頃に採取すべきことを記したが、種の大きさから、本当は食用には向かない木苺のようである。
以前この土地で沢山栽培されているプルーンでジャムを作った事があったが、買ってきた材料であったので木苺ほどの感慨はなかった。
来年辺りには昨年植えた「すぐり」が沢山実を付けるはずである。今年の初夏に透き通った真っ赤な実を少しばかり着けたので食べてみたら、甘酸っぱくて良いジャムになりそうである。今年の中に、もう二三本植えておこうと思っている。