県道を歩いていると、野鳥が降りて遊んでいる風景をよく見る。地面に居る虫や、風で落ちた木の実などを拾っているのだろうか。別に驚く風もなく、二三メートルに近づくと、尻尾を上下にせわしなく振りながら、向こうを向いて、とことこと離れていき、しばらくすると、立ち止まってこちらを振り返る。そして、「もっと近づいてくるのかな」と言う顔をする。更に近づいて行くと、再び、とことこと走っていき、また立ち止まる。今度は、少し間をおいてじっと見ていると、「何だ付いて来ないのか」という顔をして、餌を拾い始める。数十メートルに亘って、こんな事を繰り返す。まるで水先案内をやっているようである。それでも最後には藪の中に飛び込んで、近くの木の枝に止まり、知らん顔して彼方を見ている。
 こんな行動をするのは、セキレイに多い。ヒガラやアカハラも同じような行動をする。

 また、登山の途中で、周りが木で覆われた山道の真ん中に小さな水たまりがあって、シジュウカラが水浴びをしていた。二、三メートルほど先である。家内を後手に制し、そっと歩みを止めて眺めていると、しばらく水浴びをした後、ひょいと水を跳ね飛ばし、道に沿って”ちょん、ちょん”と跳ね歩いていく。見失わないように付いていくと、やはり時々後ろを振り返っては先に進む。家内と顔を見合わせ、目で笑う。
三十メートルも行くと、右の藪に入って見えなくなった。

 鳥は非常に目が良く、我々が鳥を見つけるより早く、我々を知っているはずである。意図的に脅かさない限り、山の鳥は人を怖がらない。彼らから見れば人の動きなどは、鈍重なもので、むしろ、猛禽類などの方が怖いのかも知れない。

 ある日、まだ入ったことがない街道の脇道に車を乗り入れてみた。そこは舗装もなく、昔入れた砂利が殆ど土に隠れた田舎道である。林を通して射し込む木漏れ日が、砂利や落ち葉に当たり、斑模様を作っている。ふと、前方に小鳥が遊んでいるのを発見し、慌てて車を止めた。でも、小鳥の方は別に驚くでもなく、今まで通り餌をついばんでいる。じっと見ていると、何時までもそこいらを歩き回って何かを拾って食べている。しびれを切らして、少し車を進めると、向こうを向いて、”とことこ”と走り出す。あまり近づきすぎてもいけないと車を止めると、その先で再び餌を探し始める。また車を少し進める。鳥は走って先へ行く。まるで、「平気だよ。一緒に遊ぼうよ」と、言っているみたいに、落ち着いて餌を拾っている。こんな事を繰り返す中に、曲がりくねった道を50メートルも来てしまった。
 鳥は案外好奇心が強く、遊び心があるのかも知れない。

 先日、夜遅く山小屋に向った。小屋の近くに差し掛かった時のことである。国道から分かれて小屋に通ずる曲がりくねった道は、森に囲まれ、両脇が草で覆われている。ヘッドライトで照らされる部分だけがはっきりと映し出されていて、周りは漆黒の闇である。
 ふと、前方に、ライトに照らし出されて、なにやら見たことのない小動物が居る。慌ててブレーキを掛けて止まると、その動物は、可愛らしい仕草でこちらを振り向く。
 子猫ぐらいで、胴が長く、足が短く、細長い尻尾が真っ直ぐに後に伸びている。色はよく分からないが、ライトの中で焦げ茶色に見える。テンやイタチの類らしい。
 じっと見ていると、やおら向こうを向いて、すたすたと歩き出した。ゆっくり車を動かして付いて行くと、くねった曲がり道毎に立ち止まり、振り向く。こちらが近づくと、再び、ちょろちょろと先に立って歩いていく。ほんの三、四メートル先である。こんな事を繰り返している中に右の土手の陰にこそこそと入り込んで見えなくなった。
かれこれ40メートルも、水先案内をしてくれた。何とも可愛らしく不思議な行動である。