まだ一月なのに、外は春のように暖かい日が続いている。いつもなら固く凍ってスコップの歯が立たない土も、表面に霜が降りる程度で、中は柔らかい。三月か四月の陽気である。

 別荘地の工事仲間の池田さんは、登山仲間の小高さんと二人で、早くも、頼まれて堀越さんの庭の階段作りを始めた。例年は、土をいじる工事は早くても三月末であるが、池田さんに刺激されて、私も以前から計画していた焚き火場を作ることにした。

 焚き火場は、室内の薪ストーブと並んで山の重要な舞台装置である。戸外で火を囲んでの談笑や一人黙然と薪や粗朶が燃える様子を眺めるのは、山の醍醐味の一つである。だから焚き火場は最も良い場所に作りたい。出来れば、もう一つの舞台装置である床下の囲炉裏に近い方が便利だし、雰囲気も出る。

 建物の直ぐ南の斜面に、将来の花壇のために空けておいた一番日当りの良い場所に焚き火場を作ることにした。

 生えていた白樺などの小木を二月と三月にそれぞれ移植した。表面の5cmほどが凍っていたが、スコップだけで何とか掘り起こせた。移植に適した時期かどうか分からないが、凍っていて土が崩れないので、木のためには良かったのかなと思う(でもツツジは大丈夫であったが、白樺の小木は後で枯れてしまった)。

 土留めのため、枕木置き場から18本の枕木を引き下ろし、先ずその中の二本の枕木を縦引きして16本の杭を作った。杭作りはいつもながら、大仕事で、丸二日掛かった。また、里の砂利屋から砂利を2トン運んでもらった。更に、13枚の飛び石と60枚の耐火煉瓦を里のホームセンターから買ってきた。

 工事に先立ち、水泡の水平器とレーザー水準器を使って簡単な測量をした。

 建物から犬走り分1.4メートルほど離して、傾斜地を平らにし、東西に3.2メートル、南北に2.5メートルの平地を作った。
 四辺に枕木を3~4段積んで土留めをした。約8平方メートルの平地が出来た。山側の土を崩して谷川に入れたので外部から土を補給する必要はない。

 地形が北東から南西に傾斜しているので、東と北側には、平地から上側に土留めの枕木を四段積み、南と西側には、平地から下側に三段積む形になった。土留めに要した枕木は、全部で16本となり、杭は大小23本であった。

 出来上がった平地の中心から、少し南に寄せて、内径1メートルの、凹型の円形炉を作った。粗朶を燃すときは、がさ張るので、このくらいの大きさがどうしても必要である。
 しかし、薪による焚き火にはやや大き過ぎるので、扱いやすいように、その内側を垂直に掘り下げ、50センチ径の炉を作った。

 具体的には、下段の垂直炉は25センチ掘り下げ、底を十分固め、霜で浮かないように5センチほど砂利を入れた。内側には耐火煉瓦を、厚み方向に縦てて、放射状に29枚並べた。その煉瓦の頭のレベルに合わせて、15センチ幅で輪状に平らな面を作り、炉の内部に降りるステップとした。
 ステップ面から上には、60度の角度で、耐火煉瓦を漏斗型に26枚貼った。更に、煉瓦の頭を隠すように、直径30センチ、厚さ7センチの飛び石を11枚、周りに配置した。これは縁の補強と飾りを兼ねている。

 飛び石は美感上互いに少し離した。飛び石の下には霜よけのため、5cmほど砂利を敷いた。

 最後に平地全体に飛び石の面に合わせて約12センチほど砂利を入れて完成である。
 ここに使った砂利は、固まり易さと歩き易さから、粗さ25ミリ以下のものを、凡そ0.7立方メートル入れた。大型バケツで37杯分あった。

 この平地の西面に沿って、建物から直角に庭に下りる階段を付けた。幅70センチ、ステップの高さ20センチ、踏み込み幅45センチの枠を枕木で5段作った。枠の中に土を入れ、その上に5センチの深さで砂利を入れた。この階段は、二段目が焚き火場の平地と同じレベルになっていて、焚き火場に降りる通路を兼ねている。

 本当は、業者に頼んで、大きな自然石で炉を組みたかったが、傾斜がきつく、またユンボが入る余地がないので、やむなく、扱いやすい人工的な材料で作ることになった。
 思ったよりすっきり出来たが、全体に幾何学的過ぎるきらいがある。それでも使い込めば、もう少し味が出てくるかも知れない。

 友人の日野氏は、これを見て、「この炉のために山小屋が見違えるようにいい雰囲気になったよ」と誉めてくれた。下の佐藤夫人は、友人を連れてきて、まるでプロが作ったようだと、驚いていた。

 炉の周りの平地には、腰掛け用に、直径30センチほどの丸太を40センチの長さに切り、三つほど置いた。焚き火は、風向きで煙の方向が頻繁に変わるので、人が移動しやすいように、椅子はスツール形にした。この他、ホームセンターからアルミ製の三人掛けベンチを買ってきて北端に置いた。

 同じ別荘地の堀越さんの焚き火場には、自然木を三又に組み、真ん中に二股の木をブル下げて、鉄瓶が掛けられるようになっている。野趣豊かであるが、大量に薪や粗朶を燃やす場合には取り外す必要があるので、やや面倒である。

 そこで、一メートルほど離れた場所に、太く短い鉄パイプを打ち込み、そこに、回転可能な、腕木の着いた2メートル程の棒を挿し込む。棒と腕木は、腐らぬよう、また素朴な味が出るように枕木から切り出して作る。腕木の先端にはフックを着け、簡単な自在鍵を吊り下げる。
 棒の根には長い釘を一本貫通させ、一定の深さまでしか入らないようにして、回転し易くする。また、その釘が鉄パイプの断面の切り欠きに落ち込み、腕木の方向が定まるようにする。
 実はこの部分は構想だけで未だ出来ていない。

 火の始末には、やはり水を掛けるのが一番安心である。しかし、翌日も燃やす場合があるので、中段の炉に合わせて、取っ手の付いた八角の鉄の落とし蓋を里の鉄工所で作ってもらった。蓋には黒い耐火塗料を塗って貰った。

 焚き火場では、下段の炉を使ってバーベキューも出来る。また地下の囲炉裏でバーベキューをしながら、焚き火場で湯を沸かせる。そんな使い方をするためにも、囲炉裏と焚き火場の両方が近くにあると便利である。

 日野氏は早速そこいらに転がっていた腐りかけた杭や階段に使っていた丸太を拾って燃やした。二段構造の炉は、大きな薪でも縁に立てかけられるため、軽快に燃える。

 こんな風にして火を見ていると、「やはり焚き火は山小屋の宝石だなあ」と思う。