10月6日(金)
 そろそろ秋も深まり、気温も10度を割るようになってきた。
家内が歯医者に行かなければならないことから、急遽一人で来ることになった。

 最近、山小屋への途中、国道のあちこちに温度表示板が設けられていて、とても便利である。長坂ICから清里へ向かう有料道路のゲートを出たところに最初の温度表示板がある。今晩は7度を示している。ここは、昨年東沢の上に掛けられた大橋を渡る寸前の場所である。標高1300メートル程であるのに、谷から吹き上げる風が冷たいのか、此処の温度は、2000メートル以上有る野辺山より低いことがある。
 温度表示板が低い温度を示し出すと、紅葉が間近になる。
 夜、八時頃家を出た。体育の日に繋がる三連休を控えているので、中央道はいつもよりずっと交通量が多かった。夜11時頃小屋に到着した。持ってきた食料は、冷凍すき焼きご飯、トマト四個、レタスキーパーに入った少しばかりのレタスだけである。明日、作業の合間に買い出しに行く積もりである。

10月7日(土)
 ストーブ、茸、杭の仕上げ
 朝から良く晴れている。気温は9度位であるが、室内は15度ある。それでも肌寒いのでストーブを付ける。今年は先週からストーブを付け始めた。一寸早いか、例年並と言ったところである。
 今年の春は何時までも寒かったので、灯油を買い増ししたら、やはり殆ど余ってしまったので、この秋は、しばらくは買いに行かなくても間に合う。灯油は配達もしてくれるが、10分走れば里のホームセンターで半額で買える。
 朝、庭を一回りしたが、例年生える”りこぼー”(はないぐち茸)が一本もない。茸の好きな連中が朝早く取ってしまったらしい。我が家の庭は、南斜面で乾燥した土地柄であるが、木がこんもり茂っているので、茸には適しているらしい。近所の人達は我が家の庭を茸の宝庫と言っているそうである。人もよく知っていて、寝坊な我々は何時も取られてしまう。

 予定通り、11時頃から、二三週間前に製材した枕木の杭材を丸鋸盤で尖らしたり頭の面取りをしたりして、18本の杭を完成させた。
 杭が出来ていると、何時でも土留め工事が出来るので、何となく、ゆったりした気分になる。

 土の貯蔵場所
 我が家は傾斜地なので、土留めをする場所が沢山ある。土留め工事には隙間に詰める土や、平地にするための土が思ったより沢山要る。この三連休は、杭の仕上げと土の貯蔵場所を作る計画でやってきた。以前小屋の西側に作るつもりで土を入れたが、その場所は地下へ降りる通路に使ってしまったので、別な場所を考えなければならなくなった。

 今回は小屋の東側に二三トン貯蔵できる場所を作った。この場所は、駐車場の外れにあり、駐車場からダンプで土を供給できるので絶好の場所である。
 此処も傾斜地であるので、下側に枕木を三段積み、土留めを作った。2メートル四方で、深さ1メートルほどの土置き場である。
 建物の隣とは言え、ブッシュの根や朽ちた古株が何本もあり、整地するには一寸したアルバイトであった。

 ここは、屋根に降った樋の雨水を放出する場所になっていたので、土置き場の底を更に深く掘り下げて、雨樋のパイプを埋め込み、土置き場の先に放出するようにした。
 この他土留め工事には、大量の砂利が要るが、以前買った残りがあるので何とか間に合いそうである。
 土置き場が完成したので、何時も土を買う今井重機さんに電話して、来週までにダンプ一杯分の土を入れておいて貰うように頼んだ。これで、来週からの土留め工事の準備が全て整った。

 茸汁
 夕方、下のSさんの奥さんが来て、「”りこぼー”が沢山採れたので今夜は私が茸汁をごちそうするわ」と言う。「それは嬉しいですね。初めて東京の合羽橋で買った鉄鍋の出番が来ましたよ」と言って笑った。買っただけで使わずにずっと仕舞ってあった鍋である。「火を熾して、鍋と酒と味噌だけ用意しておきますから、六時に来て下さい」と言って分かれた。
 初めて使う鍋を洗い、地下の囲炉裏で、たっぷりと火を熾し、ビールでも飲んで待っていようかと思った時、丁度佐藤さんが懐中電灯で庭の小道を照らしながら材料を抱えて「はーはー」言いながら登ってきた。茄子、カボチャ、ネギ、茸等を抱え、更に東京から持ってきた混ぜご飯、きんぴら牛蒡、ザーサイなど、結構なご馳走の種を持って来てくれた。

 鉄鍋に水を入れ火に掛ける。湯が沸いたところで、煮えにくいカボチャから煮始める。順次材料を入れ、最後に味噌を溶いて入れると出来上がりである。

 早速茸汁を頂く。「旨い!」。二人だけだが、何杯もお代わりして、腹一杯になった。佐藤さんは酒を殆ど呑まないが、今日は茸汁が旨いのか、ワインをグラスに二杯ほど呑んだ。私もビールとワインを呑みながら、料理を堪能させて貰った。野天の茸鍋は我が家では初めてであった。
 外は薄ら寒くなってきたが、八時頃まで食べたり呑んだり喋ったりして秋の夜長を堪能した。

 10月8日(日)
ニュウに登る 
 昨日、Sさんが、来るなり、「ニュウへ行きましょうよ」と言う。別荘地の坂井さん率いるハイキングの会のメンバーが明日はニュウに登るのだという。ニュウは、北八ヶ岳の縦走路から少し外れた岩峰である。白駒池の駐車場に八時半に集合するが、定期バスでは間に合わない時刻である。「車がないから是非乗せて行って欲しいのよ」という。「坂井さんも車がないけど、電話で渡りを付けて誰かと行くらしいの」と言っていた。彼女の所には電話がないので、身近な私に頼んできたのである。丁度山歩きがしたかったので、一緒に行くことにした。

 今朝は晴れていた。予報では夕方になって雨の可能性があるとのことだった。雨具をしっかり持って二人で出掛けたが、一日雨らしい雨は降らなかった。

  総勢十四人であった。男性と女性は四対六ぐらいだった。年齢も三十代から六十代まで色々居た。いつもの仲間のようである。私はこの会の山登りでは初参加であるが、前回の夏山の時には、下山後に堀越さんの家で開いたパーティーだけに参加したので、大抵顔見知りであった。

 坂井さんの日程選択が適切で、白駒池の周りにある”さらさどうだんつつじ”が真っ赤に染まって、それは見事だった。みんなも「やー、綺麗だ。これは素晴らしい」と、ひとしきり写真を撮った。辺りには日曜カメラマンが沢山来ていて、立派なカメラと三脚を広げて、真っ赤に染まった景色を夢中になって撮っていた。
 紅葉の時期は短いので、なかなか紅葉に合わせて来るのは難しいものである。トドマツの原生林のあちこちに、モミジやナナカマドが真っ赤に染まっていた。また遠い山々の針葉樹林の間に、黄色く紅葉したダケカンバが点在し、斑模様を作っていた。
 ニュウまでは約二時間である。途中、植物学者の坂井さんが、樹木や山野草の解説をしてくれた。花の時期ではないが、艶のある”岩鏡”の丸い葉っぱ、赤い実を着けた”御前橘”、草履のような葉の”オサバ草”等が沢山生えていた。また黒沢女史は野鳥に詳しいそうであるが、この時期は鳥があまり鳴かないので、彼女の博識ぶりが聞けなかったのは残念であったが、それでも「星ガラスが鳴いていたわよ」と、声だけで星ガラスを聞き分けるのは、素人の我々から見ると、「流石だなあ」と感心する。
 ニュウの頂上は、高曇りであったが、空気が澄んでいたので、思いがけず、少し離れた天狗岳、硫黄岳がくっきりと出ていた。いつもならよく見える南アルプス連峰の山々は見えなかったが、富士山が雲の上に浮いていた。また、奥秩父連峰の金峰、瑞牆や、群馬の浅間、更に遠く、北アルプスの槍、穂高がはっきりと見て取れた。その他、雲の上に妙高などの北信五岳が絵のように浮かんでいた。これまでに何度も来ているが、これほど遠くの山がくっきり見えたことはなかった。
 山々を見ながら頂上で昼飯を摂った。今日はSさんがおにぎりを作り、私が海苔だけ持って行くことになっていた。食後のお茶は私がバーナーとコッフェルで沸かし、皆さんにご馳走した。

   途中、若い須賀さんが先導であったが、彼はそれなりに気を使ってゆっくり歩いてくれたが、私のいつものペースよりほんの少し速い感じであった。その時はそれほどでもなかったが、翌日、かなり疲れていた。でも、佐藤さんは、私より年上であるのに、けろりとしていた。彼女は小屋に来る時は何時も駅から七八キロ歩いているので、訓練が出来ているのである。

  帰りは、白駒池で解散した。坂井さんから、「私の家で三時から秋刀魚焼きパーティーします」と案内があった。私は家に帰ってから、作業の残りと、買い物に行く都合があるので、参加するかどうか決めていなかったが、買い物に行っている間に、坂井さんから何回も電話があったらしく、大変失礼してしまった。電話によると焚き火をしながら、みんなから楽しい歌が出ていたそうである。別荘の人達の楽しい集いが、こうして続いている。

10月9日(月)
 前日からの力仕事と昨日のハイキングで少し疲れが残っていたので、今日はのんびりしたいと思っていたが、丸鋸の平行移動板の改造をしたり、地下を片付けたり、駐車場の砂利の始末をし始めると、いつものように止まらなくなってしまった。
 少し汗をかいたので、風呂に入り、6時半頃小屋を出た。途中、野辺山の通称”びっくり市”で、叔母のお世話になっている病院と母のお世話になっている養老院へ、お土産の林檎を一箱ずつ買った。

 その後、これもいつものように、清里のビアレストラン”Rock”に寄り、地ビールで夕食を取った。三連休のため、中央道は、早い時間帯は30キロメートルの渋滞であったので、時間をずらすために、よく行くRockに寄ったのである。アフターディナーのコーヒーを飲みながらゆっくり休んでRockを出たら、道路は既に渋滞が解消していて、思ったより早く東京に着いた。