小屋から国道299号を麦草峠に向かって車で15分も登った所に、狭いが眺望の開けたところがある。周りにはそれらしい物は何もないが、一本の太い杭が立てられていて、”八千穂高原”と書いてある。どうやらこの辺り一帯が八千穂高原であるという意味らしい。
そこから右手の山全体に、八千穂の名物白樺林がある。左手には谷川が有り、しばらく行くと、国道はこの谷川に掛かった橋を向こう側に渡る。そこから両側は見渡す限りの広大な白樺林となる。
橋の右手の高いところに溶岩で出来た複雑な形をした大きな岩が屹立している。少し先まで行って、振り返ると、その岩は、一辺が二十メートルもある大きな肘掛け椅子のような形をしていて、まるで王座の風格がある。その周りには春になると三つ葉ツツジが咲き、白樺が芽吹き、多彩な広葉樹が独自の色を燃え上がらせる。王座のオブジェは森のアクセントになっているため、一年中アマチュアカメラマンが集まり、作品作りをする場所になっている
その先の白樺林の中には、一寸した広場があり、村営の舞台装置が出来ていて、夏には村主催の別荘祭りが開かれる。村人がボランティアとなって、屋台を作り、ビールやおつまみを振る舞って、なにがしかの税金を納めている別荘の住人にサービスをしてくれるのである。別に神社が有るわけではなく、従って、御輿が出るわけでもない。まあ、ピクニックのようなものである。舞台では、村が呼んだ芸人が漫才をやったり、音楽を奏でたりして、村人も一緒に一日のんびりと過ごすのである。
そこから更に二三分走ったところの右側に、フィールドアスレティックの設備があったり、小さなスノーモービルの練習場があったりする。その隣には、一部、熊笹が下草となった白樺の森があり、その手前には、レンゲツツジの群落があり、春には橙色の花が我々を迎える。
ここから林道が北に伸びて、ハイキングコースとなり、2114メートルの八柱山に続いていている。この林道では、たらの芽やウドが沢山取れるので、春にはよく出掛ける。
道路の反対側の低い平地の奥に食堂兼用の山小屋が一軒あり、高原を散策する拠点となっている。この辺り一帯は、秋には真っ赤に紅葉して、目も覚めるような素晴らしい景観を呈する。
小屋の裏側には、複雑な地形を利用した自然園(公園)があり、八ヶ岳特有の高山植物が豊富に自生している。その中ほどを川が縫っていて、途中にいくつもの小滝があり、大きな箱庭のような風景を作っている。その下流に川を堰き止めて作った人工湖があり、溢れた水が深い谷に吸い込まれている。秋の紅葉の時期には、我が山小屋を訪れる人を連れて行く場所になっている。
遠く八ヶ岳連峰に目をやると、八千穂高原の広大な白樺林を取り囲むように、落葉松の森が八ヶ岳の尾根に溶け込むように続く。秋も深まると、広葉樹の紅色も消え、山は茶色味を帯びた黄色い落葉松の紅葉に変わる。風ではらはらと散る落葉松の葉は何とも幻想的で、地面はふさふさとした黄金色の葉で埋め尽くされる。
また、国道299号の支脈を南に少し下ったところに人工湖八千穂レイクがあり、夏には釣りが楽しめるし、冬は完全に凍結し、車で走っても壊れないほど厚い氷が張りつめる。
もう少し下ると、全国でも数少ない車で乗り入れられる駒出池キャンプ場があり、夏には、小さな池の周りにテントやバンガロウの花が咲き、若者や家族連れで賑わう。
八千穂高原は、八ヶ岳の東山麓に広がる広大な自然公園である。