10月も末になり、かなり寒くなってから絵の仲間三人が山小屋に来てくれた。四人集まって、私の小屋の周辺でスケッチをしようという話は前から出ていたが、スケジュールが合わず、とうとう今頃になってしまったのである。

例年だと紅葉は終わり、寒々とした庭になるが、今年は紅葉が少し遅れたため、私の小屋の周りは丁度紅葉の盛りで、庭は真黄色に染まっていた。所々どうだん躑躅が真紅の彩りを添えて、今年の紅葉はいつもよりずっと綺麗で鮮やかである。

「Crazy Painting Club」と名付けたスケッチのグループ四人が、年に一度一緒に描いている。と言っても、私以外の仲間は毎月描いている。私は、ずぼらで、皆さんと一緒の時、つまり年に一回しか描かない。だから、何時までたっても初心者である。グループで描くと何となくその気になる。また先輩が手を入れながら教えてくれるので得るところが多い。それが皆の下にぶら下がっている理由でもある。昨日、三人は、軽井沢でゴルフをして、桝野さんの別荘に泊まり、今朝、私の小屋に来てくれた。私も一緒にゴルフをする予定であったが、重要な会議が入り、残念ながら参加できなかった。

皆は、朝九時半頃到着し、コーヒーを一杯飲んで、候補地の松原湖へ出かけた。

松原湖は私の小屋とほぼ同じ標高であるので、丁度見頃であり、色も赤が多く、素晴らしい景色を見せている。天気がやや曇り気味であったので、いつもは素晴らしい遠景となる八ヶ岳は全く見えなかった。それでも時々木漏れ日がさし、紅葉を引き立ててくれた。

湖を半周しながらポイントを探し、それぞれの構図を選んで書き始めた。枡野さんは、先生について習っていない私の指導のために、直ぐ側にイーゼルを立ててくれた。それは11時頃だったろうか。終了の予定は3時と定め、それぞれが書き始めた。12時半頃一度車の所に集まる予定であったが、私と鈴木さんは、食事どころではなく、このまま描き続けた。枡野さんと飯村さんは、朝、枡野さんの奥さんが用意してくれた弁当を取りに行って我々に配ってくれた。私はおにぎりをほうばりながら描き続けた。枡野さんも飯村さんも二枚目に入っていた。ベテランにとって四時間は長すぎるのである。

そうこうする中に天気が回復して、時折雄大な八ヶ岳が顔を出すようになった。景色は一変するが、これを取り入れる余裕は私にはない。枡野さんは流石に一部を取り入れていた。
3時寸前に、二人から指導を受け、何とか終わらせた。

これから帰って、岩魚のバーベキューである。いつもの養魚場に寄って岩魚を八匹仕入れ、持ち帰る。腹の裂き方を教わってきたので、流しで包丁を使って裂き、腸を出し、きれいに洗って薄く塩、胡椒を振る。

その横で、飯村さんが十能に備長炭を入れ、ガスで種火を作る。適当なところで地下の囲炉裏に移し、柔らかい炭を混ぜて火を熾した。

囲炉裏一杯に火が熾きると、網を置いて岩魚を一度に焼く。川魚は強火でしかも遠火でじっくり焼くのがコツである。そのため私の囲炉裏は網の高さを自由に変えられるようになっている。

適当に焦げ目の着いた岩魚は如何にも美味しそうである。一斉に食べ始める。「旨い」と、皆が言う。その後しばらくは、箸と口が動き、沈黙が続く。

さっきまで泳いでいた岩魚は、新鮮そのもので、何も付けずに、そのまま食べるのが一番美味しい。ヒレも皮も適度に焼けているので、骨さえ取れば、そのまま食べられる。皆、二匹ぺろっと平らげた。

次に、網を鉄板に切り替えて、野菜と肉を焼く。六十五歳以上の年寄りの集まりなので、用意した材料の半分も食べない中に、皆腹が一杯になってしまった。

日も落ち、薄ら寒くなったので、明かりを灯し、用意した二つの石油ストーブを炉の両側に置き、暖を取りながらの酒盛りとなる。それでもこの二三日は暖かく、夕方でも十度以上有った。

先週、囲炉裏の周りに、予め絵を並べる場所を作って置いたので、そこに今日の成果と鈴木さんの最近作が並べられた。一頻り、いつものように感想、評論、指導がなされる。私のような初心者は初心者なりの感想を述べる。それに連れて、プロの意見が飛び交う。なるほどと頷きながら、素人は知識を深める場になる。
少し早いが、寒さも手伝って、外でのバーベキューを切り上げ、小屋に入る。
今回は、家内がパソコン教室で来られず、私一人で来たので、65歳以上の年寄り仲間にとっては、何となくやもめムードで、意気が上がらない。いつもは全て奥さんにやって貰っているらしい。第一線を退いた男達の独立宣言は未だ先の話のようである。

代わり番づつ風呂に入りながら、今度はパステルを使って、絵の実地指導が始まる。私の絵は見る見る変わって行く。どうしても上手く表せなかった松の森が、飯村さんのパステルにかかると、瞬く間に本物の松になる。水は本当はもっと暗いのだと言って、かなり濃い、暗い色で修正させられると、実物に近ずくだけでなく、水面の光が現れる。森の奥に、濃い色を入れると、急に奥行きが出てくる。ベテランはやはり凄い。この調子だと、私は、いつまで経っても「Crazy Painter」のままになりそうである。

さて皆さんは、かつては秘書付きの社長、専務、常務さんであり、アウトドア経験が殆ど無いので、上げ膳据え膳でない我が山小屋に再度来てくれるだろうか、心配である。